今日は、辻 仁成さんの『冷静と情熱のあいだ /Blue』です。
RossoとBlueはそれぞれ女性目線と男性目線に分かれており、著者も女性と男性で2人で書いているという珍しいタイプの小説となっています。
どちらから読んでも楽しめる作品となっています。
私はBlue→Rossoの順で読みました。
ここでは素敵だと思った文章を紹介していきます。
4.2 174個の評価
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目次
この本で感じること

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あおいのことが忘れられない順正
イタリア、フィレンツェで修復士をしている順正は、芽実と付き合いながらも日本での大学時代に出会った不思議な魅力を持つあおいのことが忘れられない。
ところがあれから五年もの歳月が経っているといのに、忘れさろうとするだけすればするだけしっかりとあおいの思い出は記憶されてしまい、ふとした瞬間、たとえば横断歩道を渡っている最中や、仕事に遅れそうで走っている最中、ひどいときは芽実と見つめあっている時なんかに、亡霊のようにすっち現れ出てぼくを惑わす。
それでも不思議なもので、何故かこんな子供のような芽美でも嫌いにはなれなかった。どれほど彼女のことが好きか、自分でも計りかねていることは確かだったが、むしろ彼女が子供であればあるほど、あおいとは違った角度で、ぼくは芽実の中にかつての自分に似た匂いを嗅ぐことができた。
あおいはどこか寂しな面があった。
彼女がいるだけで、ぼくは何だってできるような気がしていた。でも。あおいはどうだったのだろう。あんなに幸福な時代を生きていながら、どこかで未来を信用していないようなそんな表情をすることがあって、ぼくを時々不安にさせるこのだった。
対象的に芽実は明るく賑やかで子供っぽいところが魅力。
そういえば最初から光の下でぼくたちは抱き合った。あおいが決して暗がりでしか求めなかったのとはちょっと違う。イタリア人の血が混じっているその見事なプロポーションを自慢しているわけでもない。彼女は肉体だけではなく心もいつもさらけ出していた。
そんな芽実の人生にも暗い面がある
目の玉のふちが仄かに揺れている。ぼくは人目も気にせずに彼女を抱きしめた。誰にでも、どんなに幸福そうに見える人間にさえ、一つや二つは人生の中に暗い影が差しているものだ。ぼくは、普段は人の何倍も賑やかな芽実に差し込むその歪な影が、いとおしくてならなかった。それはぼくは自信とも重なり合う灰色の影でもあった。
どうやってもあおいのことが忘れられない
その次の瞬間、視界の先をふいに一人の女性が過ったのた。過去の記憶を辿っていなければ見落としてしまいそうな懐かしい人影であったあ。涼しげな目。ほのかにふっくらとした頬。しなやかな髪の毛。意志のつよそうな唇、細い身体。ぼくがずっと心に刻みつづけていたあおいその人の記憶のままであった。
体が勝手に反応を起こし、握っていた芽実の手が自然に外れてしまった。芽実の声が後方から響いたが、その時ぼくはもうすでに駆けだしていた。
駆けだした順正でしたが、結局あおいかだったのか見つけることができず、それ以来毎日あおいを見かけたドゥオモへ通うことになります。
画家だった祖父の言葉
修復士を続けるか、人生に迷いが生じる順正に祖父はこういいます。
「きっとわしは日常風景の観察者でありたかったんだろう。こうして的確にモチーフを切り取って再生させる若い頃のわしは、ある意味でカメラのの目を持っていたと言ってもいい。もう今はこの機会の目は失われてしまったがね。カメラアイを持って世界を放浪し、感じたものをカンバスに複写する。それだけなんだが、当時の自分の行動の原点が表れている。こうしてわしに切り取られた世界はわしという人間の目を通じて一つの作品となり未来へと旅をし続けているんだ。もうこの同じ家や壁や杭は地球上にはないかもしれん。なのにそれを拵えた者たちの精神はこうして残っている。画家の役目とはそういうものだ。未来への懸け橋とでもいうのかな」
母校を訪れる
母校の大学を訪れ当時の思い出を振り返る順正
彼女が、溢れ返る学生たちの中にぼくを探しているのを、ぼくはすぐには駈け寄らず、少し離れた物陰からじっと見つめた。あおいは首をひねったり、目を凝らしたりしていた。普段はクールな人なのに、ぼくはそんな風に、首を長くして待っていてくれたことが嬉しかった。案の定、ぼくが、やあ、と顔を出すと、私も今来たところよ、という顔をしてさっさと立ち上がって歩きだした。彼女という人はそういう人だった。冷静の中に情熱を隠して持ち歩いているような……
タイトルにもある「冷静と情熱」
あおいの冷静さと芽実を情熱とも取ることができますが、一人の人間の冷静さの中にも情熱があると見ることが出来ると気付かされました。
再会の約束が近づく中、
あおいとなんとなく口約束で一緒に過ごすことを約束していた日を信じて過ごす順正。あおいが覚えているはずもない約束の日が近づく中、順正は芽実と過ごしている。
芽実に求められて抱き合っても、心はそこにはもうなかった。男という動物の虚しさはここに心がないというのに女性を抱けるということだ。それは半ば同上のような行為でもあり、芽実を侮辱するものでもある。こんなことを続けてはいけない、全てが終わるごとに後悔をするが、今日という日をなんとかやり過ごそうとする怠惰な性格のせいで、ぼくは一瞬の快楽につい身を委ねてしまうのだった。
芽実との別れ
順正があおいのことが忘れられないこと知った芽実は苦しく思い、順正と別れることになった。ある日、久しぶりに再会した2人。
子供だな、といつも思っていた。何をやっても失敗ばかりする芽実に、よく手を焼いた。でも面倒くさいと思いながらも、同時にそこが彼女の魅力だと思う。正直芽実と別れたあと、十年後、彼女のことをあおいのように思い出さないとは限らない。彼女の言う通り、のきは芽実に救われたことが何回もあった。この子の子どもっぽいところに安らぎを感じたことがあった。
偽善者め。ぼくは自分の心を反省する。
芽実との別れに際して、あおいと別れたときのことを思い出す。
芽実は声を出して泣いた。今度は耐えることもなく延々と。
どうしてあの日、あおいは泣かなかったのだろう。ぼくの前で泣いたことがあっただろうか。いやあったはずだ。泣き崩れたことだってあるはずだ。なのに、印象は、鎧を着たジャングル・ダルクのようにいつも凛として強い人だった。
約束の日
おあいとの約束の日。約束の場所であおいを待つ順正。
空がある限り、ぼくは一人ではなかった。学校で苛められていても、家で父に殴られても、都会の真ん中で孤独だと感じても、平気だった。そういう時は真っ先に空を見上げ、もしもその時スケッチブックを持っていたなら、その空が変化する前にぼくはすばやく永遠の一瞬を描き写した。
再会を果たした2人。何も変わっていないようで八年で大きく変わっていた。
再会を懐かしみながらも、あおいと順正は離れなければならなかった。
ぼくは自分の中で小さな情熱が巻き返しに出るのを感じる、この瞬間、過去も未来も色あせ、現在だけが本当の色を放つ。広場を爽やかな風が吹き抜け、ぼくは風の流れに目を止める。四方八方からドゥオモに集まってくる人々の石畳に映る長い影が揺れる。過去も未来も現在にはかなわない、と思う。世界を動かしているのはまさにこの現在という一瞬であり、それは時の情熱がぶつかりあって起こすスパークそのもの。
過去にとらわれ過ぎず、未来に夢を見過ぎない。現在は点ではなく、永遠に続いているものだ、と悟った。ぼくは、過去を蘇らせるのではなく、未来に期待するだけではなく、現在を響かせなければならないのだ。
あとがきより
共同作業で作り上げる小説について
問題なのは、元来作家というのはいつも自分が一番と思っている動物なので、こういうコラボレーションがなかなか成り立ちにくいということなのだ。
冷静と情熱のあいだには何があるのだろう。愛と孤独のあいだには何が横たわっているのだろう。読者の皆さんがこの作品を通してそれぞれの感情のあいだに流れる小さいが決して途絶えることのない川を発見して下さることを希望しています。